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梓「唯先輩!なでなでしてください!」

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1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 22:50:45.19 ID:LvUn4vLK0
「もう、あずにゃんは甘えん坊だなぁ」

そう言いながら、梓ちゃんの頭にそっと触れる。優しく優しく、壊れ物を扱うように。

梓ちゃんの髪はさらさらで、撫でている私の手にも心地良い。

梓「うう…からかわないで下さいよ」

椅子に腰かける私の膝にもたれかかるその顔は、少し恥ずかしがっているようだったけれど、日頃からは考えられないほどにゆるみきっていた。

本当に猫のよう。いつもはつんとしていて中々懐かない癖に、一旦慣れたらとことん甘えてくる。あずにゃんとはよく言ったものだ。



―――――――――私たちが、こんな歪んだ茶番を始めたのは、お姉ちゃんたちが卒業してからだ。




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 22:52:13.86 ID:LvUn4vLK0
梓「純、お願いっ!名前だけでもいいから軽音楽部に入って!このままじゃ人数不足で廃部になっちゃう……憂が一緒にやってくれるっていうから、あと二人必要なの」

純「……わかった、梓の頼みとあっちゃ断れないね。ただ……私はジャズ研の役職があるから、実際にそっちの練習に行くわけにはいかない。そこはやっぱり、最高学年としての責任があるから。ごめんね」

梓「うん、わかってる。ありがとね」

純「代わりにってわけじゃないけど、もう一人ジャズ研から名前貸してくれる子を探してみるね。そしたらちゃんと4人になるでしょ?」

梓「……本当にありがとう。無理言ってごめんね。本当に感謝してる」

純「水臭いこといいなさんなって!私たち友達でしょっ!」




4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 22:55:50.80 ID:LvUn4vLK0
~音楽室~

梓「ふたりっきりだと、この部室もずいぶん広く感じるね」

憂「そうだね。ちょっとさみしいかも」

梓「うん……でも、頑張らなきゃ。先輩たちがいなくなっても絶対に軽音楽部を無くしたりしない。部長の私が守る!」

梓(だからそのためにもっともっと練習して、いい演奏をして、馬鹿にする人たちに実力を見せつけなきゃ!)

例えば、先生方の間でもこのように無理矢理に存続させている部活動に対し批判的な人は少なくない。

さわ子先生の奔走無くしてはいかに名義が揃おうと軽音楽部は消滅していたと思う。
存続のために下げたくないであろう頭をたくさん下げてもらった。さわ子先生には感謝してもしきれない。

また、去年の演奏を知らない一年生の中には軽音楽部の存在すら知らないという人までいるみたいだ。新歓のときには部員確保でごたごたしていたから、演奏すらできなかった。

大きな音楽系の部活の人たちからはあからさまに馬鹿にされたこともある。

悔しかった。そして何より、先輩たちに申し訳なかった。




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 22:59:15.82 ID:LvUn4vLK0
梓(だから……演奏で黙らせてやる!)

憂「梓ちゃん……あんまり思いつめないでね?」

梓「うん、まあ、大丈夫だよ。ほら、私部長だから頑張らないと」

梓(こんなとき先輩たちが……唯先輩がいてくれたら)

梓(ダ、ダメダメ!今の部長は私なんだから!)

梓(でも……)

梓(やっぱり、そばにいてほしい……)

憂「あ、ちょっとまってね。髪の毛結びなおさなきゃ」

そこには、唯先輩がいた。
一度入れ替わりもした前科があるのは伊達ではない。会えない寂しさが上乗せされて心が乱されたのか、髪を下ろした憂の姿は本人にしか見えなかった。

梓「あ……唯……先輩……」




6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 22:59:47.50 ID:LvUn4vLK0
私は何を言ってるんだろう。

もう唯先輩に頼らないって決めたのに。私が部長だから頑張ろうって決めたのに。

私は、何を泣いてるんだろう。

梓「あ、ごめんね、なんでもないからっ!は、早く髪結んじゃってよ!さっさと練習しなきゃ、ね?」

憂「梓ちゃん、いや……あずにゃん、おいで?」

そういって、にっこりと笑いながら憂は手を広げて見せた。

落ち着け私。
何を馬鹿な。
こんなの間違ってる。

でも、次の瞬間、私は憂の、いや――――――「唯先輩」の腕の中で声をあげて泣いていた。




7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:01:16.21 ID:LvUn4vLK0

なんで私は梓ちゃんをあの時抱きしめてしまったのか、今でも実はよくわからない。

全部一人で背負いこんでいた梓ちゃんをかわいそうだと思ってはいた、何か力になれないかとも。

でも多分、それだけじゃない。

大好きなお姉ちゃんになれる。
つまり、お姉ちゃんの世話をするとか、一緒にいるとかではなく「お姉ちゃんと同一の存在になる」ことに惹かれちゃったのかな。

もしくは、梓ちゃんがお姉ちゃんといつも仲良くしてたのに嫉妬して、引き離そうとしてたのかも。

……この関係は、あの一度きりでなく今でも続いているということは事実なのだから、動機なんてもうどうでもいいか。
今の私と梓ちゃんにとって重要なのはその事実だけなのだから。




9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:02:39.02 ID:LvUn4vLK0
梓「……よし、ありがとうございました!きょうはこれまでで大丈夫です」

「わかった~。ならちょっとむこう向いててね?」

髪をほどくとき、結ぶとき、憂と私はお互いに目をそらす。
どちらが決めたというわけではなく、自然にそうなっていた。

憂「あ、そういえば梓ちゃん」

近くにいながら、目を合わせず、背中越しに話す。

梓「どうしたの?」

まるで私たちの不自然な関係を象徴してるみたい。

憂「今日、うちに泊まっていかない?」

私たちは、どうなってしまうんだろう。




10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:03:52.78 ID:LvUn4vLK0
~平沢家~

梓「お邪魔しまーす」

憂「いらっしゃい」

生活感の無い家だった。憂がしっかり掃除しているのもあるんだろうが、この家に一人では散らかりようもないだろう。

憂「まずはご飯にしよっか」

梓「あ、手伝うよ」

憂「いいのいいの、座ってて」

てきぱきと料理を作る憂の姿は生き生きして見えた。
久々に人が来たのが嬉しいのだろう。

憂「できたよー。」

梓「ありがとう。いただきまーす」

憂「さ、めしあがれ」

梓「流石憂だね!美味しい」

憂「ありがと。お姉ちゃんがいなくなってからずっと一人でご飯だから作るのにも張り合いがなくて…久しぶりに手の込んだもの作ってみたんだ。喜んでくれてうれしいな」

憂「美味しいって言ってくれる人がいない料理って、寂しいから」




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:05:03.67 ID:LvUn4vLK0
憂らしい、と思う。

自分のことなんてそっちのけで、人のために何かしてあげようとする。しっかりしてるように見えるが、そんな意味では危ういところがある。

「自分を犠牲にしてでも褒めてほしい」なんてことじゃなくて、要は、極度の世話焼きなのだ。称賛はあくまでおまけにすぎない。相手の幸せそうな姿を見るのが憂の幸せなのだ。

でも、憂には憂自身のことももっと大事にしてほしい。
本人がいくら幸せでも、頑張りすぎて倒れたりなどしたら却って皆が辛い思いをするだけだ。

憂が他人の幸せを願うように、憂の幸せを願う人はたくさんいるのだから。

私だってそうだ。

だって私は憂の

―――――――――憂の、なんなんだろう。




12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:06:40.84 ID:LvUn4vLK0
憂「どうしたの?やっぱり美味しくなかったかなぁ……」

梓「にゃっ!?い、いやいやいやいやそんなことはないよ!あはははは……」

憂「あはは、変な梓ちゃん。じゃあ私はもう食べちゃったしお風呂の準備しとくね」

梓「う、うん……」

急いで残りの料理に手をつける。やっぱり美味しい。
唯先輩が毎日食べていたのと同じ……って、なんでここで唯先輩なんだ。

にしても、憂にとって私はどんな存在なんだろう。
ただの友達、もしくは親友、または部活の仲間、バンドメンバー……それとも

憂「……ちゃん。梓ちゃん」

梓「ふぁっ!?」

憂「体調悪いのかな?一応お風呂用意できたけどそれならやめといたほうが……」

梓「え、いや、大丈夫だよ!さ、先に入っちゃっていいかな。厚かましいけど……」

憂「もちろん。大切なお客様ですから」




13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:08:46.05 ID:LvUn4vLK0
梓(ふう……いいお湯だ)

梓(……憂)

わからない。
入学してから今まで付き合ってきたはずなんだけどなあ。
案外、お互いよくわかってないのかな。
そういえば、今までずっと唯先輩がらみの話ばっかりしていた気がする。
今の関係だってそうだ。

梓(うう……なんか憂と顔を合わせるのが気まずいかも)

憂「梓ちゃん、湯加減どうかな?」

梓「にゃあああ!?だ、大丈夫!最高です!」

憂「さっきから大きな声出してどうしたの?まあいいや、なら私も入るね」

梓「はーい……ってえええええ!?」

ガラリとお風呂のドアが開く音がする。
ドアに背を向けて湯船に浸かっていた私は振り向くこともできずにただ固まっていた。

「あずにゃーん、こっち向いてよ」

梓(!?)




14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:12:47.15 ID:LvUn4vLK0
梓(確かにお風呂に入るときは髪をほどく。だけど、今まで憂が自発的にこんな風に接してきたことはなかったはずだけど……なんのつもりだろう)

彼女は椅子に座って体を流すと湯船に入ってきた。
後ろから抱き締められる形となり否が応でも心臓の鼓動が速くなる。

梓(ちょっ……当たってるって!ここは唯先輩とは全然違う……って何考えてるんだ私!)

「ねえあずにゃん、きもちいい?」

梓「え、あ、はい……」

のぼせたのか、この状況に動転してるのか、頭がぼーっとしてくる。

そして、なにも考えられなくなってしまう。

今の関係への疑問も私たちのこれからなんてのも全部吹っ飛んで、そこにあるのはただ蕩けてしまいそうな感覚だけ。




16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:20:46.64 ID:LvUn4vLK0
「気が抜けきった顔だね。きもちいいの?」

梓「はい……」

「素直だねえ。えらいえらい」

梓「あっ……」

不意によしよしと頭を撫でられる。
実は私はこれが好きでたまらない。なにか安心する気がするから。

頭を撫でるやさしいてのひらの感覚と、背中から伝わる肌のぬくもりしかもうわからない。
いっそこのままとけてしまえればいいのに。

梓「きもちいい……」

「いいこいいこ……って、鼻血でてるよ!」
梓「えっ!?」





17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:29:11.84 ID:LvUn4vLK0
憂「もう、のぼせてたなら言ってくれたらよかったのに」

梓「ごめんなひゃい……」

そう言う梓ちゃんの顔はまだ火照ったままだ。
膝枕をしながら、そんな梓ちゃんを団扇であおいでいる。

憂「しばらくこうしてようか?」

梓「ありがと」

梓ちゃんは元が色白だから却って頬の赤さが目立つ。
その白さが災いしてか、夏にはこげにゃんになっちゃうけど。




18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:33:14.37 ID:LvUn4vLK0
にしても、誰かに甘えているときの梓ちゃんは可愛らしい。
同性から見ても十分に魅力的だ。

こうやっていると、むしろ甘えてるのは梓ちゃんじゃなく私なんじゃないかと思う。
私は甘やかす誰かを必要としてるだけなんじゃないか。

お姉ちゃんだってそうだってのかもしれない。
ただ、一番そばにいる姉妹だったから、それだけだったんじゃないか。

私のせいでお姉ちゃんはダメになったんだと軽音楽部の先輩方は笑って冗談を言う。

私はお姉ちゃんのことをダメなんて思わない。最高のお姉ちゃんだ。

確かに家事一般は私がやっていたけど、お姉ちゃんは私にたくさんの愛を、温かさをくれた。




19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:37:36.58 ID:LvUn4vLK0
でも、もしみんなからお姉ちゃんがそんな風に思われちゃってるなら、そしてそれが私のせいなら、私は最低の妹だ。

そうやって、今もまた同じことを梓ちゃんにしようとしているのかもしれない。
梓ちゃんからお姉ちゃんの面影を投影されながら、私もまた梓ちゃんをお姉ちゃんの代替として扱ってしまってるのかもしれない。

溺愛という言葉がある。
私も梓ちゃんも、今の倒錯した関係の中に溺れかけているのかもしれない。

でも、今さらただの友達にも戻れるはずがない。
もう私は止まれない気がする。




20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:41:40.62 ID:LvUn4vLK0
梓「もう落ち着いてきた。ごめんね」

憂「大丈夫ならよかった。じゃあそろそろ寝よっか」

梓「うん、そうしよっか」

憂の後について寝室へと向かう。
やっぱりなんか気まずい。到着までの間二人ともなぜか黙り込んでしまう。

憂「はい、ここ」

先に入るように促され、私は部屋へ足を踏み入れた。
電気がついていないため、廊下からの明かりの範囲でしかでしか室内の様子は窺えないけど……

梓「……ここ、唯先輩の部屋じゃん」

返事をしないまま、憂は私の横をすり抜けてベッドへ腰かける。
いつの間にか髪をほどいている。先に入るように言ったのはこれか。

どこか淫らささえ感じるような微笑み。
どくん、と心臓が脈打った。

「そうだよ。ほら、あずにゃん、おいで」

「ずっと、こうしたかったんじゃないの?」




21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:49:23.06 ID:9B6bERRjO
素晴らしい




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:50:42.28 ID:LvUn4vLK0
確かに、私は唯先輩のことが好きだった。

「ねえ、あず……」

梓「触るな!」

でも、「これ」は違う。こんなの私の求めていたことじゃない。

彼女の伸ばしかけた手がびくっと震え、そのまま戻る。
暗くて表情がよく見えない。でも、さっきまで浮かべていた妖しげな微笑みは姿を潜めているのはわかる。

梓「私が望んでいたのはこんなんじゃない!おかしいよこんなの!」

梓「こんな……こんなのってないよ……」

何故か涙が止まらない。
どうして。
どうして私たちこんな風になっちゃったんだろう。

私に怒鳴られて一瞬動きが止まった憂は、一呼吸置いてベッドから立ち上がり、私の隣をすり抜けて部屋を出て行った。

憂「私、自分の部屋で寝るね」

憂「……ごめん」

私の背後で、ゆっくりとドアが閉まる

部屋は、闇に閉ざされた。




23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:56:03.27 ID:LvUn4vLK0
結局その晩は一睡もできなかった。
ただ布団をかぶって子供のように泣いていた。


梓(元はといえば私が唯先輩に会えない寂しさ、心細さを全部憂に押しつけようとしたのが悪いのに、あんな風に拒絶して、憂を傷つけて……最低だ、私)

どんな顔をして憂に会えばいい?
合わせる顔がない。もうこのまま消えてなくなってしまいたい。

憂「梓ちゃん……起きてる?」

私を呼ぶ声もかすれている。憂もきっと一晩中泣いていたのだろう。
合わせる顔があろうとなかろうと、憂が呼んでいる以上答えないのは逃げにすぎない。

梓「うん……」

梓「あの、昨日は……」

憂「昨日はごめん」

私の謝罪の言葉は憂によって遮られた。
謝るべきは私なのに。私の都合で憂を振り回した私が全部悪いのに。

憂「あのね、私の話を聞いてほしい。ちょっと長くなるけど、いいかな」

梓「……うん」

ドア越しの会話。

そういえば、最近憂の顔をちゃんと見ながら話してないなと思った。




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:57:57.45 ID:LvUn4vLK0
憂「私ね、嬉しかったんだ。最初に梓ちゃんが甘えてきてくれたとき」

憂「大好きなお姉ちゃんがしてるみたいに、大切な人に温かさを分けてあげられたらって。そう思った」

憂「大好きなお姉ちゃんみたいになれる、って」

憂「本当のところを言うと、お姉ちゃんから梓ちゃんを引き離せるかもとか思ったり、なんて」

憂「でも、一人でいろんなものを抱え込んでる梓ちゃんの力になりたいって思ってたのは本当だよ」

憂「ずっと一緒にいて、まじめで頑張り屋さんの梓ちゃんだから。大切な人だからって」

憂「でも、結局梓ちゃんを傷つけちゃった」

憂「馬鹿だよね、私」





25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/18(水) 23:59:49.24 ID:LvUn4vLK0
馬鹿なのは私のほうだ。

憂がこんなにも私のことを考えてくれていたのに。

私は憂になにをしてあげられた?
ただその優しさを受け取ってるばっかりで、こちらからは何もしてあげられなくて、そしてこのざまだ。

一人で勝手に全部背負いこんでるだけだったじゃないか。

「一人じゃつらい、唯先輩がいてくれれば」って、馬鹿じゃないの?

勝手に幻想を追いかけて。

私のそばには、いつだってずっと憂がいてくれたじゃないか。

入学して、同じクラスになって、軽音楽部に入ったあとだって……ずっと、ずーっと。

先輩たちが卒業して心細かった私を支えてくれた憂。

嫌な顔一つしないで軽音楽部に入ってくれた憂。

空回りする私を傍で優しく見守っていてくれた憂。

―――――――こんな私のために泣いてくれる憂。




26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:04:36.81 ID:Nu1wqvkh0
憂「ごめんね。もう、私のこと嫌いになっちゃったよね」

ドアの外で、憂が泣いている。

これ以上私のために傷つかなくていい。

これ以上私のために涙を流さなくていい。

憂の涙を止めるため、私にできることは何だろう。

憂「じゃあ、話はこれで終わり。じゃあ、さよなら」

これで終わりなんて、絶対に嫌だ!




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:08:38.38 ID:Nu1wqvkh0
梓「待って!」

梓「憂……私、憂のことが好き!」

梓「一晩考えて、頭冷やして分かったの。どれだけ私の中で憂が大切かって。どれだけ今まで一緒にいてくれたかって」

梓「今まで、唯先輩のことが好きだって思ってた……でもそれは、やっぱり先輩としての尊敬とか憧れとか、そんな感じのもので……ああもう!とにかく今の私には憂が一番大切なの!憂がいてくれればそれでいいの!他の誰でもない憂が好きなの!」

引かれちゃったかな。
……よりにもよってこんな時に。

タイミングは最悪だ。

でも、それでも今しか私は言えなかったと思う。これでよかった。そう思うしかない。




28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:14:29.86 ID:Nu1wqvkh0
憂「……梓ちゃん、入るよ?」

返事をする前に、ドアが開いた。
憂の眼は赤く腫れて、今も涙をたたえていた。それもこれも私のせいだ。

梓「憂……その……」

憂「梓ちゃん。告白はね、ちゃんと目を見てするものなんだよ」

そう言って、憂はにっこりと微笑んだ。
こんなに可愛い笑顔は生まれて初めて見た気がする。

憂「私も大好きだよ、“梓ちゃん”」




30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:21:12.66 ID:Nu1wqvkh0
~音楽室~

あれ以来「雨降って地固まる」というやつで、二人の演奏も一層合うようになっていた。
肩の力が抜けて、いい意味で余裕が出てきたのも良かったのだろう。

ちなみにあの後は決して部室では憂とやましいことはしていない。

二人きりとはいえ学校でだなんてそんな背徳的な。
そんなことしなくたってちゃんと夏休みには合宿と称して憂と二人きりで……げふんげふん。

そりゃあ久々にちょっとだけティータイムしてみたり、まあその時「あーん」とかやってみたりとか、憂のリクエストでネコ耳してみたりとか……で、でもそれくらい先輩たちがいたときから普通にやってるからOKなのだ。部長の私が言うんだから間違いない。

……最近、律先輩化しているような気がするが、きっと気のせいだろう。




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:29:03.88 ID:Nu1wqvkh0
憂「そういえばね、梓ちゃん」

梓「うん?」

憂「今度の夏休み、お姉ちゃん帰ってくるって」

梓「そっかあ……なら、唯先輩に私たちのいいところ見せてやらなきゃね!」

憂「うん!」

それを聞いて俄然やる気が出てきた。

私と憂とで作っていく、新しい軽音楽部を先輩に見せられるのだから。




32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:31:51.45 ID:Nu1wqvkh0
それから先輩の帰省まで、時間はあっという間に過ぎて行った。

勉強、部活、勉強、部活、デート、部活……受験生は忙しいのだ。

そして、唯先輩と会う日にになった。

先輩の帰省してきた翌日にはもう会えることになった。

音楽室で待ち合わせ。私と憂は先に来て準備をしていた。

梓「いきなりでいいの?帰省疲れとかあるんじゃない?」

憂「とにかく早くあずにゃんにあいたい~ってさ」

そういって軽く笑う。

いかにも先輩らしい発言だ。音声が脳内で再生される。

梓「さて……そろそろ時間なんだけどなあ」




34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:35:29.01 ID:Nu1wqvkh0
梓(まあ唯先輩が憂なしに時間を守れるはずは……)

憂「あ、お姉ちゃんの足音!」

梓「足音でわかるんだ……」

まあ、言われてみれば、今聞こえる必死で階段を駆け上る音は唯先輩以外にはありえないだろう。こんなに急いでいるのにどこかへろへろとした足音は確かに先輩だ。

そして、ドアが勢い良く開かれた。

唯「二人ともごめーん!!」

梓「まあギリギリセーフです」




35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:38:04.83 ID:Nu1wqvkh0

待ち合わせの時間一秒前といったところだろうか。

できればもう少し余裕を持ってほしいところだが、
それでも唯先輩も成長したといえるだろう。昔ならあと30分は遅れていたところだ。

梓(私たちも成長したんだというところを見せてあげなくては!)

唯「あずにゃ~ん、久しぶり~」

梓「って、言ってるそばから抱きつかないでください!」

憂「そうだよお姉ちゃん。いくらお姉ちゃんでも、私の梓ちゃんにいきなり抱きついたらめっ!だよ」

唯「憂が厳しい~」

そう言って唯先輩は唇を尖らせる。
こんな所は全く変わってない。




36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:43:04.32 ID:Nu1wqvkh0
梓(それにしても……)

私の梓ちゃん、か。
やばい、にやにやが止まらない。

梓「じゃ、じゃあ演奏始めますよ!」

憂「放課後ティータイムの曲を二人でできるようにアレンジしてみたんだ。これからオリジナル曲も作っていくつもりだけどね」

梓「いつぞやのゆいあずのアレンジとは一味も二味も違いますから、期待してくださいね」

憂「じゃあいきます!『ふでペン ~ボールペン~』!」




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:47:41.03 ID:Nu1wqvkh0
演奏が終わった。
最後に残った音が消えていく。

多分、今まで合わせたなかでも最高の出来だろう。

唯先輩に聞かせるのだということが却って程よい緊張感を生みだしていた。

唯「……」

憂「お姉ちゃん、どうだったかな?」

梓「先輩?」

唯「……すごいよ二人とも!!!私は今猛烈に感動しているよ!!!」

憂「えへへ、ありがと」




38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:51:16.01 ID:Nu1wqvkh0
唯「憂は始めたばっかりなのにすごいよ!私より上手だよ!」

憂「それは言い過ぎだよぉ」

唯「あずにゃんも更に腕を上げたねえ」

梓「あ、ありがとうございます!」

唯「二人とも、もう私のもとを巣立って行ったんだねえ」

憂「えへへへへへ」

梓「別に私は唯先輩に育てられてないです」

そう軽口は言うものの、私も憂も、少しは唯先輩離れできたということだろう。

もちろん、二人とも相変わらず先輩のことは大好きだ。

でも、もうそれを絶対化することも偶像化して依存することもない。

だって、私には憂が、憂には私がいるのだから。




40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 00:55:53.58 ID:Nu1wqvkh0
唯「あずにゃんっ!うちの憂をよろしくお願いします!」

梓「はい!って……なにも泣くことはないじゃないですか」

憂「お姉ちゃん……今までありがと」

梓「いやいや憂も!別に嫁入りするわけじゃないし!」

唯「遊びだったのあずにゃん!?」

憂「そうなの……?」

梓「誰もそんなこと……憂もそんなうるうるしないの!ああもうわかりましたよ!憂は私の嫁です!中野憂です!これでいいでしょう!」

唯「……平沢梓」

梓「別にどっちでもいいです!」

憂「あはは、どの道ずっと一緒だからね」

そう言って憂が抱きついてくる。
珍しく積極的だ。でも、正直萌え以外の何物でもない。憂可愛い。




45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 01:03:11.69 ID:Nu1wqvkh0
唯「妬けますなあご両人。そういえば、二人のバンド名って……」

梓「あ、それなんですけど……申し訳ありませんが、HTTの名前は封印させてください」

梓「私はHTTが大好きです。でもそれはやっぱりあの五人じゃなきゃだめなんです」

梓「HTTは5人の大事な思い出として仕舞っておきます。そして、私たち二人……まだ名前は決まってないけど、新しいバンド名で、私たち二人の新しいバンドとしてやっていきたいんです!」

梓「その……なんか、生意気言っちゃってごめんなさいです」

唯「そんなの……そんなのダメだよ!」

梓「先輩……」

憂「お姉ちゃん……」




47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 01:06:51.62 ID:Nu1wqvkh0
唯「まだ名前決めてないなんて遅いよ!早く新しい名前決めなきゃ!」

梓「ってそっちですか!心配して損しました!」

唯「え~。何だと思ってたの?」

憂「てっきり名前を変えることに反対したのかと思ったよ」

唯「若い二人が新たな人生の船出を迎えようとしてるんだから、名前も新しくして当然じゃない?」

梓「なにやら色々と誤解を招きそうな表現ですが……それにHTTだってギリギリに決めた名前ですよ」

唯「そういやそうだね~。なら焦らなくっていっか」

憂「そうそう。確かに私たち、もう三年生だし、卒業まであんまり時間はないけど……梓ちゃんとなら絶対にいい名前も思いつけるよ!」

唯「なんか子供の名前みたいだねえ」 

梓「さっきからニヤニヤしすぎです!」




48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 01:10:08.57 ID:Nu1wqvkh0
でも……確かに憂とならいいバンド名も思いつけそうな、いや、なんだって乗り越えて行けそうな気がする。

色々悩んでたけど、もう私たち自身にも過去にとらわれて立ち止っていられるほどの時間はないのだ。

だから信じて進んでいこう。

二人なら、きっと大丈夫。

梓「憂、これからもずっと一緒だよ」

憂「うん!」








おしまい!




51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 01:13:49.78 ID:Nu1wqvkh0
タイトルがミスリード狙いだったために、気分を害されたり肩透かしを食らった方がいらっしゃるようで……申し訳ないです。

支援してくださった方本当にありがとうございました。





55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 02:10:23.74 ID:8XE9g2BQ0
タイトルでつられなければ、素直に乙といえた
まあ乙




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/19(木) 02:24:42.56 ID:IE7s+RkUO
タイトルに騙されたけどそれが狙いかwww
乙でした










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[ 2010/08/24 19:12 ] けいおん | TB(0) | CM(7) はてなブックマークに追加
本当に感動しました!ありがとうございました。
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これはよかった
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これはなかなか・・・
21話の後ってのもあって、結構感動してしまった・・・orz
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おおう・・・・・・・
これはいいえすえすですね^q^
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梓憂いいよいいよ
感動した
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スレは伸びてなかったが名作だと思う
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巧い
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